前回の記事で、私たちはコンピテンシーが個人の「根源的特性」であり、卓越した成果を生み出す行動パターンであることを深く掘り下げました。そして、そのコンピテンシーを見極める強力なツールとして行動結果面接(BEI面接)をご紹介しました。
今回の記事では、このコンピテンシーと、現代の目標管理フレームワークとして注目されるOKR(Objectives and Key Results)が、なぜこれほどまでに相性が良く、互いに響き合う関係にあるのかを深掘りしていきます。OKRがコンピテンシーの発揮を促し、そしてコンピテンシーの視点がOKRの運用をさらに効果的にする、そのメカニズムを探りましょう。
コンピテンシー発揮の土台としてのOKR:目標が行動を引き出す
コンピテンシーは、単に「持っている」だけでは意味がありません。それが具体的な行動として発揮され、成果に結びついて初めて価値を持ちます。そして、この行動を引き出す上で不可欠なのが、明確な目標やゴールの存在です。
まさに、この「目標やゴール」そのものが、OKRの核となります。OKRは、「達成すべき野心的な目標(Objective)」と、その達成度を測る「具体的な主要な結果(Key Results)」を設定することで、個人やチーム、組織全体の方向性を明確にします。
OKRを立てるプロセスは、まさにコンピテンシーを発揮するための土台作りと言えます。
- 目標設定が行動を促す: たとえば、「顧客満足度を向上させる」という目標(Objective)を設定したとします。この目標があるからこそ、「顧客の潜在ニーズを引き出す傾聴力」や「粘り強く交渉する精神力」といったコンピテンシーを発揮しようと、具体的な行動を計画し、実行に移す動機が生まれます。
- 野心的な目標が「卓越性」を引き出す: OKRは往々にしてストレッチな、挑戦的な目標を設定します。この”ムーンショット”とも呼ばれる高い目標こそが、個人が持つコンピテンシーを最大限に引き出し、「平均」ではなく「卓越」を目指す行動を促すのです。従来の業務の延長線上ではない、新たなアプローチや工夫が必要となるため、まさに「根源的特性」が試される場となります。
このように、OKRを設定することは、コンピテンシーが実際に発揮されるための明確な行動トリガーとなるため、その基礎として極めて重要な意味を持つのです。
OKRの「チェックイン」がコンピテンシーを可視化し、成長を加速させる
OKRの運用において非常に重要なのが、定期的な「チェックイン」です。これは単なる進捗報告の場ではありません。OKRのチェックインは、未来の行動に焦点を当て、これからどのように目標達成に向けて動いていくのか、どのような仮説を立て、それに対してどのように取り組んでいくのかを共有し、検討する場です。
このチェックインプロセスこそが、コンピテンシーの可視化と自己認識、さらにはレベルアップに大きく貢献します。
- 「これからどう行動するか」の言語化: チェックインでは、各個人やチームが現在の進捗に基づき、「次にどのような行動をとるべきか」「どのようなアプローチを試すか」を口に出して共有します。この「仮説への取り組み」を言語化する過程で、自分自身の思考プロセスや行動パターンが無意識のうちに表出します。
- KRへの意識と仮説検証の向上: 常にKR(主要な結果)という上位概念を意識して振り返り、次の行動を検討することで、個人の「分析的思考」や「概念的思考」といった知的コンピテンシーが磨かれます。目標達成のための仮説を立て、それを検証し、必要に応じて修正していくプロセスは、まさにコンピテンシーを実地で鍛えるトレーニングです。
- コンピテンシーの可視化と自己認識: チェックインを通じて、上司やチームメンバーは、特定の状況下で個人がどのような「イニシアチブ」を取り、「自己統制」を発揮し、「対人理解」を持ってチームと協調したかなど、具体的なコンピテンシーの発揮状況を観察できます。同時に、本人も自身の発言や行動に対するフィードバックを通じて、自分の強みや弱み、つまり「コンピテンシーがどのように発揮されているか」を明確に自己認識できるようになります。
- コンピテンシー・レベルの意識と取り組みの強化: スペンサー夫妻の「コンピテンシー・ディクショナリー」に示される20項目のコンピテンシーとそのレベル分類を頭に入れると、このプロセスはさらに強化されます。「今、自分はどのレベルの『達成思考』を発揮しているだろう?」「この課題に対して、もっと高いレベルの『イニシアチブ』を取るにはどうすればいいだろう?」といった具体的な問いが生まれ、自身の行動を意識的に高いレベルへと引き上げようとする取り組みの強化につながります。
つまり、OKRのチェックインは、単に目標進捗を管理するだけでなく、個人のコンピテンシーを可視化し、自己認識を深め、自身のレベル分類を意識することで、継続的な能力開発と成長を加速させる強力な機会を提供するのです。
まとめ:OKRとコンピテンシーで「卓越性」を追求する
OKRは、コンピテンシー発揮の具体的なフィールドを提供し、個人が持つ「根源的特性」を行動として引き出します。そして、OKRの運用プロセス、特に「チェックイン」は、そのコンピテンシーを可視化し、自己認識を促し、さらには意識的なレベルアップを可能にする強力な触媒となります。
OKRとコンピテンシーは、目標設定と能力開発という両面から、個人と組織の「卓越性」を追求するための、まさに不可分な関係にあると言えるでしょう。