私はこれまで、「DriftThinking™(ドリフトシンキング)」という考え方を通じて、自分自身の内面を丁寧に見つめ、感情や思考、感覚の流れを「漂う」ように味わう時間の大切さを伝えてきました。私たちの内側には、日々の喧騒のなかで見過ごされがちな、しかし確かに存在する豊かな推進力があります。その力を信じ、焦らず向き合うことが、心の静けさや安心感につながる──それが、ドリフトシンキングの本質です。

そして今、その考え方を他者との関わりの中でどう活かすかという実践的テーマに取り組んでいます。本稿で紹介するのは、応用編として提唱する「PayDrift(ペイ・ドリフト)」という関わり方です。これは、後輩や仲間など、身近な誰かの成長や悩みに寄り添うための、新しい支援のかたちです。

近年、「ペイ・フォワード」という考え方が注目を集めています。社会的な成功を収めた人が、自らの経験や人脈、資金力などを次世代に還元し、恩恵を他者に「与えていく」支援のスタイルです。これは確かに美しい循環ですが、よく見ると、支援者と被支援者の間に明確な差があることが多いのも事実です。与える側は「持つ者」、受け取る側は「持たざる者」という構造の中で、支援の輪に入れる人も限られてしまうのです。

私自身、華々しい成功を収めた起業家でも、巨額の資産を持つ投資家でもありません。そんな私にできる支援は何かを考えたとき、ドリフトシンキングの精神を支援の文脈に持ち込むことがひとつの答えになると気づきました。それが「PayDrift」の誕生でした。

PayDriftは、「与える支援」ではなく、「信じて待つ支援」です。誰もが内面に備えている、静かで確かな推進力が自然に立ち上がるまで、その人自身の歩みを尊重し、見守り続ける姿勢です。

PayDriftの具体的な進め方

実際に私が行ったPayDriftの実践をご紹介しましょう。起業を目指す後輩が悩みを抱えていたとき、私は彼に対して資金を援助したわけでも、具体的なビジネスアイデアを与えたわけでもありません。代わりに行ったのは、彼が自身の思い、葛藤、価値観、思考のクセにじっくり向き合う時間を持てるよう、丁寧に問いを投げかけることでした。

たとえば、「最近、何が気になっている?」「自分らしいと感じた瞬間はいつだった?」といった問いを通じて、彼が自分の内面を掘り下げるプロセスを支えました。そして、気づきを整理しやすくするために、彼の中にある価値観や傾向に「名前をつける」などの手法も取り入れました。

すると、彼は自分の中にあった本当の悩みや願いに気づき、自らの中から自然な力が湧き出てくるのを感じたのです。それは、他者から与えられる支援とは異なり、自分の中に眠っていた可能性に自ら気づき、それを動力源として活用する、自律的な変容でした。

PayDriftでは、以下のようなアプローチを重視します。

  • すぐにアドバイスや解決策を提示するのではなく、まず相手の内面にある感情や価値観に目を向ける。
  • 問いを通じて、本人が自身の思考パターンや感覚に気づく手助けをする。
  • 気づきが整理されるよう、価値観に名前をつけたり、メタ視点での振り返りを促す。
  • 相手が自らの意志で動き出すのを信じて待ち、その瞬間が訪れたら、心から承認し、共に喜ぶ。

支援とは「共に成長する」体験へ

PayDriftの本質は、「助ける」ことではなく「共に漂い合うこと」にあります。支援する側とされる側という構図を超え、互いの内面に静かに関心を寄せる関係。問いを重ねる中で、支援する側の私自身にも新たな視点が生まれ、自分の思考や価値観にも気づきを得ることができました。

このような関係性は、結果や成果を急がず、互いの内面を丁寧に見つめることで育まれていきます。それはドリフトシンキングが大切にする「幸福」と「豊かな関係性」を、他者との関わりの中で実現していく道でもあります。

「今すぐ役に立てる何かがない」と悩む必要はありません。内面に静かに関心を向け、そばにいて見守るだけで、人は不思議なほど自然に動き始めるものなのです。PayDriftは、その小さく静かな変化を支える、深く豊かな支援のかたちです。

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