現代社会では、私たちはあまりに多忙で、自分自身の内側、特に身体の感覚に意識を向ける余裕を失いがちです。しかし、私はドリフトシンキングを通じて、こうした内面の声に静かに耳を澄ませることの重要性を提唱しています。ドリフトシンキングの第一段階「気づく・感じる」では、感情、思考、そして感覚に丁寧に目を向けることを大切にします。
感覚とは、私たちが普段は意識しにくい、身体が絶えず送ってくる様々なメッセージです。例えば、緊張で胃が締め付けられたり、リラックスして肩の力が抜けるのを感じたりといった、身体に現れる反応のことです。
ドリフトシンキングで重要なのは、この感覚が感情や思考と絶えず繊細に絡み合っているという点です。漠然とした不安という感情の背後には、胸や胃の緊張といった感覚が伴っていることがありますし、ある思考(例えば「失敗してはいけない」)が特定の感覚(胸の圧迫感)を引き起こすこともあります。このように、感覚、感情、思考は互いに影響し合っており、この 相互作用性に気づくことが、自己理解への大切な一歩となります。
この感覚に丁寧に向き合うプロセスは、必ずしもすぐに言葉で正確に表現できなくても構いません。ぼんやりとした感覚でも、「よく分からないな」というその感覚そのものを味わうだけで十分効果的なのです。身体の繊細な感覚を見つめ、味わうプロセスは、丁寧でゆったりとした「自己との対話」であり、それをじわじわと深めていくことにこそ大切な意味があります。
そして、覚えておいていただきたいのは、身体感覚に、他者と分かち合えるような究極的な「正解」はありません。あなたの感覚の捉え方は、あなたにとってだけ特別なものなのです。それを深く味わい、あなたにとって心地よい方法で表現することで、自己理解が深まり、自分を大切に支えてくれる資産となるでしょう。
ドリフトシンキングは、こうした感覚を含めた内面の動きに丁寧に気づき、受け入れることで、自分自身との穏やかな関係を築いていく道です。日々の暮らしの中で、身体の小さな声に耳を澄ませる時間を持ち、内側からのメッセージを大切にすることで、より豊かで穏やかな自己との対話が生まれることを願っています。